特別養子縁組|「主人公は、大人ではなく子ども」多様な領域でのセラピューティック・ライフストーリーワークの「実践と葛藤」  |  ミダス財団

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特別養子縁組|「主人公は、大人ではなく子ども」多様な領域でのセラピューティック・ライフストーリーワークの「実践と葛藤」

Event Report

DATE: 2026.10.21

公益財団法人ミダス財団(以下、ミダス財団)は、社会的養護および特別養子縁組の領域における支援の質の向上を目指し、専門的人材の育成事業を展開しています。

社会的養護を必要とする子どもたちが、自らの生い立ちを知り、理解し、これからの人生を歩んでいくためには、「生い立ちの整理(ライフストーリーワーク)」が必要です。2025年より、英国のリチャード・ローズ博士が開発した「セラピューティック・ライフストーリーワーク(以下、TLSW)」の国際資格取得を支援する「ミダスフェロー制度」を実施しています。

2025年ミダスフェローのイベントレポートはこちら

2026年は、8名をミダスフェロー第2期生として任命し、地域を越えたネットワークの形成、実践コミュニティからの発信・共有、勉強会の実施などに取り組んでいます。

本イベントレポートでは、第2期生へのインタビューを通じて、TLSWの学びが日々の実践にどのように生かされているのか、また、今後の活動にどのような展望を描いているのかをご紹介します。

フェロー2期生(所属先)

  • 行政/児童相談所:奈良市子どもセンター、滋賀県彦根子ども家庭相談センター
  • 養親縁組里親支援機関:かわさき里親支援センターさくら(川崎市フォスタリング事業)、養子縁組支援機関ブレス・ユー
  • 民間あっせん機関:医療法人聖粒会 慈恵病院、他1団体
  • 当事者活動:Children’s Views & Voices、特別養子縁組当事者サポート団体Origin

フィールドごとのTLSWの実践

行政での取り組み:児童相談所における心理支援

児童相談所では、一時保護中などの限られた期間の中で、子どもの心理的な「アセスメント(見立てや評価)」を行う必要があります。その一方で、十分に語られないまま1つの大人目線での物語として整理されてしまうことがあります。
こうした課題に対し、フェローたちは子どもの言葉やペースを何よりも大切にしながら、共にこれからの人生を考えていくためのアプローチを模索しています。

具体的には、子どもの境遇を急いで因果関係で結びつけるのではなく、子ども自身が自分の物語を紡いでいく「余白(スペース)」を大切にする姿勢です。

また、初回や2回目の面接といった早い段階から「手のワーク」を取り入れ、児童心理司自身も好きなものを伝える「自己開示」を行うことで、子どもが「自分をテストされたり評価されたりするのではない」と安心できる関係性を築く工夫をしています。

さらに、一時保護や施設入所の初期段階から、子どもの何気ない日常や好きなことを少しずつ記録する「All About Me(僕・私のこと)」、怒りや不安の感情をキャラクターに見立てて可視化する「モンスターのワーク」や、行動の背景にある思いを整理する「ビヘイビアツリー」を導入も検討されています。子ども自身が自分の境遇を自分の言葉で説明できるよう、個々のケースで日々の暮らしのなかに少しずつTLSWのエッセンスを溶け込ませる工夫が進められています。

民間あっせん機関での取り組み:出会いの瞬間から紡ぐルーツ

妊産婦への支援の現場では、出産による入院期間(約5〜9日間)というごく短い時間の中で、赤ちゃんの誕生の瞬間からその人らしいルーツを残していく取り組みが行われています。

個人情報をどこまでどのように残すかという葛藤を抱えながらも、生み親の気持ちに深く寄り添い、無理のない形で手形ワークや、イラストを用いたライフストーリーブック(All About Me)を作成しています。この取り組みは、子どもが将来自分の生い立ちを知るための大切な基盤になるだけでなく、葛藤を抱える生み親自身が「自らの人生を振り返り、捉え直すきっかけ」にもなっています。
こうした記録は、委託後も養親支援機関や養親家庭へと引き継がれ、子どもの成長に寄り添う支援を支え続けます。

また、少し年齢が大きくなってから特別養子縁組に移行する子どもたちへのアプローチとして、「あえて『遊びの時間』をしっかりと設けること」を大切にしています。ただただ一緒に遊ぶ時間を用意したことで、子どもが緊張を解き、大人から質問をされる前に自ら気持ちを話し始めるという手応えも得られています。

養親里親支援機関での取り組み:家庭に寄り添う日々のアプローチ

特別養子縁組や里親家庭の日常を支える現場では、TLSWの手法をどのように日々の暮らしや支援に組み込んでいくかが課題です。

家庭を支援していく中で、1歳未満の乳幼児であっても、親が変わるという大きな転機において、生みの親と育ての親を「つなぐ存在」としてのTLSWの考え方を生かした支援の必要性が実感されています。

一方で、特に共働きの里親家庭などでは、日々の生活や養育そのものに多くの時間とエネルギーが必要とされます。また、日常的なLSWの実践をこれから目指している段階にある場合や、すでにLSWを取り入れ、子どもが落ち着いて生活できている場合もあります。そうしたそれぞれの状況を踏まえると、TLSWのすべてのセッションを行うことを前提として導入を提案することは、現場にとって新たな負担となる可能性があります。そうした多忙な現場にTLSWを浸透させるためには、いきなりすべてのセッションを行おうとするのではなく、トランプやジェンガといったなじみのある遊びを通じた関係づくりから提案するなど、関わる大人たち側の負担に配慮したケアやスモールステップの工夫も並行して進められています。

当事者の声から学ぶ、ライフストーリーの普遍的な価値

特別養子縁組の当事者として活動するフェローからは、自身の経験を振り返りながら、ルーツ探しを通じて生い立ちを捉え直してきた経験をお伺いしました。

TLSWを学ぶ前から、自らのルーツを探し、これまでの経験を整理する中で、少しずつ自分自身を癒やしていくような取り組みを重ねていたそうです。
その後、TLSWの学びを通じて、当時行っていたことが、自分の生い立ちを整理し、新たな意味づけをしていく「リフレーミング」につながる実践でもあったと講師から伝えられました。これまでの経験や取り組みが、TLSWの考え方によって改めて意味づけられたことに、ほっとしたといいます。自身の経験を振り返ることが、子どもたちのルーツや生い立ちを支える活動にもつながっていることが感じられるお話でした。

社会的養護を経験した当事者であり、現在は子どもアドボケイトとして活動するフェローは、TLSWを学ぶなかで「これまでの自分の支援は、どこか知らず知らずのうちに押し付けていたのではないか」と深く反省したと語ります。支援の主役は常に子ども・若者自身であり、大人が決めたストーリーを伝えるのではなく、子ども・若者自身が自らの生い立ちを理解し、自分の人生を語り出すのを辛抱強く支えることこそが大切であるという、アドボカシーと共通するマインドを再確認したのです。現在、社会的養護を出た後のケアリーバー(措置解除された若者)の居場所において、若者自身の同意のもとでTLSWの実践が試みられています。

フェローたちは、このTLSWが、養子縁組や社会的養護の子どもたちだけでなく、その背後にいる「生みの親」「育ての親(養親・里親)」、さらには「支援者自身」の自己理解をも深める、幅広い人に開かれたアプローチであると話しています。



未来への課題

それぞれの領域で実践が始まっている一方で、日本においてこのワークを安全に、そして持続可能な形で普及させていくためには、いくつかの現実的な壁があります。

1. 専門的なスーパービジョンの必要性

「子どもの人生」に1対1で向き合う重みを感じるからこそ、実践者たちは常に「本当にこれで合っているのだろうか」という不安を抱えています。特に、日本ではまだTLSWが公的な制度として十分確立されていないため、個人やフリーランスで実践を進めようとすると、情報管理のリスクヘッジの難しさや、活動が実践者の「持ち出し(自己負担)」になってしまう構造的な課題があります。

最初の実践を安心・安全に進め、真に自立した実践者となるためには、専門家による有償の個別スーパービジョン(指導・相談体制)を受けられる金銭的・制度的なサポート体制が不可欠です。

2. 情報の一元管理と「国」の役割

子どもの正確なルーツをたどる際、行政、医療機関、民間団体など、複数機関にまたがる情報を共有してもらうことの難しさが大きな壁となっています。子ども自身が「知りたい」と願ったときに、関わる団体の都合や判断によって必要な情報にアクセスすることが難しくならないようにしなければなりません。そのためにも、国が中心となって情報を適切に管理・保管し、中立的に開示できる仕組みの検討が求められます。

3. 中核となる組織の展望

個人の善意や単発の実践に依存するのではなく、医療機関、児童相談所、里親センター、民間あっせん機関、当事者団体が、情報をスムーズに受け渡せる中核組織の必要性も示唆されました。

カウンセリングの質を担保し、中立的な立場で情報収集や情報開示を行う権限を持ち、実践者のトレーニングを行う「ハブ(ライフストーリーワークセンター)」の設置、およびイギリスの「ライフストーリーワーカー」のような立場があると、今後広く平等にプログラムが展開できるのではないかというアイディアが共有されました。

ミダス財団は、TLSWの専門的な知識や技術を個人のスキルにとどめず、社会全体の共有資源として還元し、日本におけるライフストーリーワークの新たな形として定着させることを目指しています。

今回提起されたスーパービジョン体制や共通プラットフォームの必要性といった課題にも向き合いながら、フェローや関係機関とともに、その普及と定着に向けた探求を続けていきます。

関連リンク

note:【インタビュー】ミダスフェロー2期生に聞く、TLSWを現場で実践して見えてきたこと