社会福祉領域の人材育成支援のための発展的取組 ミダスフェロー制度実施報告 ~セラピューティック・ライフストーリーワーク国際資格プロフェッショナル‧サーティフィケートコースとの連携~  |  ミダス財団

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社会福祉領域の人材育成支援のための発展的取組 ミダスフェロー制度実施報告 ~セラピューティック・ライフストーリーワーク国際資格プロフェッショナル‧サーティフィケートコースとの連携~

Event Report

DATE: 2025.12.25

公益財団法人ミダス財団(以下、ミダス財団)は、特別養子縁組事業の発展形として、社会福祉領域の人材育成支援に取り組んでいます。その一環で、一般社団法人ALLOUND  Therapeutic Life Story Work Japan(以下、TLSW Japan)が主催するセラピューティック・ライフストーリーワーク国際資格プロフェッショナル‧サーティフィケートコースへの参加費用助成を実施し、助成対象者を地域間のネットワーク形成、実践コミュニティからの発信・共有活動、勉強会実施を担うミダスフェローに任命しました。本レポートでは助成対象者9名による受講前後での変化、現場での実践の変化をお伝えします。

セラピューティック・ライフストーリーワーク国際資格プロフェッショナル‧サーティフィケートコースとは(以下、TLSW)

TLSWは、リチャード・ローズ博士による、社会的養護を必要とする子ども達が自らの生い立ちや社会的養育の経緯を理解すること(ライフストーリーワーク)をサポートするためのプログラムです。日常生活から専門的なトラウマセラピーまで対応できる国際資格として、海外では英国、オーストラリア、米国、ポルトガル、シンガポール等で既に取り入れられています。
また、ライフストーリーワークの効果として、①自己調整力・対応力の獲得(自分のストーリーと向き合い続ける力)②トラウマ症状の長期にわたる軽減③高リスク行動の減少④現在の養育者とのアタッチメント強化⑤良好な友人関係の構築等が挙げられています。
本コースはオンライン3日間、対面研修3日間で構成され全国から38組の参加者が受講しました。

ミダスフェロー制度の概要

①フェロー所属先

  • 神奈川県児童相談所職員
  • 特別養子縁組あっせん機関(さめじまボンディングクリニック、ミダス&ストークサポート)
  • 里親支援機関(かわさき里親支援センターさくら川崎市フォスタリング事業、社会福祉法人麦の子会むぎのこフォスタリング機関)
  • 妊産婦等生活援助事業(ボ・ドーム ダイヤモンドルーム)
  • 乳児院(うえだみなみ乳児院)
  • 大学教員(福岡県立大学)
  • 養子当事者(特別養子縁組家庭支援団体Origin)

②フェローとして取り組んでいただいた内容

  • プログラム参加前のオンライン交流
  • 受講レポート作成/受講レポートに基づくインタビューの実施
  • ミダス財団事業への参加

フェロー受講レポート・インタビューより

ミダスフェローの皆さんによる受講レポートと、そのレポートを元に財団がインタビューさせていただいた内容から、日本で子どもの生い立ちの整理を支援できる人材を増加させていくために必要となる重要な気づきと今後の課題についてご紹介します。

”あそび”を通した相談者への介入が新しい学び

TLSWでは、相談者と支援者が”あそび”を通して関係を構築しながら、相談者が生い立ちを整理していくという特徴があります。フェローのみなさんからは、これまでの相談者との面談方法や関係構築方法の違いに驚いたという声が多数聞かれました。

  • 乳児院での保育士経験から子どもにとって「あそび」が重要であるということを理解していたが、生い立ちを整理する際にも、子どもと向き合う上で「あそび」を通して関係が深めてからセッションをすすめるということが重要であることを感じた。
  • 「あそび」を通して支援者も相談者に自己開示をしていくことの重要性を理解した。
  • 実親さんとの面談でも、「あそび」は実親さんが自分自身を知る上で使える手法だと感じた。

これまでの実践が肯定された

フェローのみなさんはこれまで実際に支援現場で相談者に対しそれぞれの手法で生い立ちの整理を支援してきました。今回TLSWを受講することによって、これまでの支援が間違っていなかったという確信を得られると同時に、これまでの取り組みを肯定されるように背中を押してもらえる感覚があったという声がきかれました。

所属先での実践の変化

  • 里子面接にあそびを取り入れたワークを実践。これまでは目の前の発育発達トラウマ(成長・発達・トラウマ)による生活課題に目をむけていたが、ワークを通して面談することによって里子から「里父母から自分が大切な存在であり(里父母から尊重されていると感じていて、自分が大切な存在なのだと思うようになった)、今が人生で一番楽しい。」という言葉が引き出せ、その時の子どもの心や考えを理解して対話することができた。
  • こどものトラウマの問題と実親の問題は地続きであることから、妊産婦に対して「あそび(クラフト)」を通したプログラムを開始した。妊産婦さんが自分のためだけにマイドール製作、アルバム作成を作成し、製作工程でこれまでの生活の話、家族の話を少しずつ紐解いていけるようにしていく。
  • 養親/里親向けの研修で「あそび」「All About Me」などのプログラムを取り入れていく。実際に子どもたちと一緒に生い立ちを整理する養親/里親さんに理解を深めていく。

支援者の育成に向けて

国内には、子どもたちの生い立ちをともに整理する支援者が不足しています。今後は、ミダスフェローが発信源となり、国内でのライフストーリーワークの意義理解・認知拡大の必要性を周知すると共に、支援者育成の一助になるように働きかけを行うことも重要と考えられます。
その一手となり得る実践に、率先して取り組んでくださったフェローの方もいます。

神奈川県児童相談所の取り組み

ミダスフェローが、神奈川県圏域の児童相談所職員向けにTLSW伝達研修をハイブリッド形式で実施しました。

伝達研修では、TLSWの内容について、受講の感想を踏まえつつ、実際のワークをデモンストレーションしながら職員へ共有しました。児童相談所が日々の虐待対応に追われている中で、職員にとっても負担にならずにTLSWのエッセンスをまずは伝えることで、子どもがより話しやすい工夫の一つに、TLSWの手法を使い、子どもが自分自身のことを理解できるような情報を一緒に蓄積していく方法や、情報の整理など、すぐに取り入れられそうな内容に限定して共有しました。また実際の事例を通じてTLSWの考える機会を研修中に考え、TLSW神奈川県版として具体的な支援に取り入れる可能性を検討する機会となりました。

日本でTLSWを展開する上での課題

  • 情報管理への課題
    今後TLSWを普及していく上で大きな課題となり得るのは、複数の場所で養育される機会の多い社会的養護を必要とする子どもたちに関する情報管理、その情報の保存、他機関が保有する情報へのアクセス等であるという言及が多くありました。
  • 担い手育成
    当事者である社会的養護を必要とす子どもが自ら情報収集を行ったとしても、その情報を一緒に整理してくれる支援者が必要です。そうした支援を各機関の努力に委ねるのではなく、ライフストーリーワーカーのような「生い立ちの整理支援を専門に担う」中核機関を設立すべきではないでしょうか。子どもに関する支援者の種類や職能団体は年々増えていることから、様々な職種が連携し子どもを1人にしないネットワークづくりに尽力することで、支援者自身も子ども支援の担い手増加に取り組むべきという考えも提示されました。

ミダスフェロー制度を通じて描く未来

ミダス財団が事業として取り組む特別養子縁組制度においても、子どもが養親に迎えられた後の継続的な支援体制の充実が不可欠です。しかし現状、養子当事者が自身の生い立ちに関する不安や迷いを抱えやすいこと、養親もまたマイノリティとしての子育てゆえに孤立や適切な相談先の不足を感じやすいことが課題としてあげられています。さらに、支援機関においても、専門的支援のノウハウ蓄積が十分とはいえず、情報管理や支援体制に地域差が生じるなど、安定した支援提供をできていない要因がいくつも存在する状態です。

ミダスフェロー制度では、専門知識を備えた支援者の育成を通じて、特別養子縁組やその他社会的養護を必要とする子どもたちへの支援の充実に寄与したいと考えています。TLSWを受講した各フェローが所属機関に戻り、組織内でTLSWの知見を伝達したり支援業務の中にTLSWの手法を取り入れたりすることによって、少しずつ支援の質を均一に整えていくことを目指します。また、フェローにより形成されていく支援者ネットワークが、地域や機関を越えた実践の共有を促進し、これまで個別機関に委ねられていた支援のノウハウが社会資源として蓄積されていくことが私たちの目指す未来の形の1つです。
今回のフェロー制度実施によって、研修を通じて機関が抱える課題をより明確に把握できたこと、また、フェロー自身がTLSWで学んだ支援方法を自らの業務に落とし込み、所属先での研修実施や支援プロセスの改善に着手するなど、具体的な実践が進んでいる様子を知ることができたことは、財団にとっても大きな収穫となりました。ミダス財団としても、引き続きフェローの能力開発意欲向上や成果共有に関する支援を引き続き実施することで、特別養子縁組・社会的養護にかかわる支援者の専門性向上と支援体制の強化に取り組んでまいります。

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