ビジネスマインドで取り組む教育環境整備で、子どもたちの“スイッチ”を  |  ミダス財団

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ビジネスマインドで取り組む教育環境整備で、子どもたちの“スイッチ”を

Interview

DATE: 2025.10.09

ミダス財団は2018年の設立以来、東南アジアを中心とした教育環境整備事業を通じて、子どもたちの人生の選択肢を広げる取り組みを続けています。今回は、海外事業を牽引するミダス財団理事チャン・バン・ミン氏に、事業の背景や現場での取り組み、そして今後の展望について話を聞きました。

スケールと持続性を求め、図書館から学校建設へ

── はじめに、ミダス財団の理事に就任された背景を教えてください。

財団設立の一年ほど前に、代表理事の吉村さんが私のオフィスに来てくださったことがきっかけです。私はもともと、自身や家族の資金でベトナムを中心に図書館を作る活動をしていましたが、建物の説明や使用用途などをお話しする中で、財団を立ち上げて、一緒に活動を進めていかないかという提案をいただきました。
当時の吉村さんは、慈善事業や地域社会への貢献、そして貧困の連鎖を止めたいという考えを抱いていたようです。ただ、どこから始めればいいかわからない状況であった中で、海外にいる私が最初のメンバーとして参加することになりました。

── なぜ個人で図書館建設を始められたのですか?

私が生まれ育った ベトナムでは経済格差が非常に深刻な問題となっており、お金持ちの人はとても裕福な一方で、9割以上の人たちが厳しい生活を送っています。少し移動するだけで、そうした光景が毎日のように目に入るのです。
物資や食べ物を配るような支援も素晴らしいことですが、私自身が本を通じて触発され、成長してきた経験があります。だからこそ、本を読む機会を提供することで人生にインパクトを与えられるのではないかと考え、自己資金で活動を始めました。福沢諭吉の『学問のすすめ』にもあるように、知識がないと始まらないという考えが根底にあります。

── 個人での図書館建設から、財団での学校建設に発展した理由は何でしょうか。

本を読む機会をいかに増やすかという根本的な課題に対する答えとして、学校という形が最適だと考え、ミダス財団に参画して真っ先に建設を提案しました。衣食住が安定した後に大切になってくるのは、人間としての進化や成長だと考えるからこそ、そこにフォーカスして学校教育に取り組むことを重視しています。
私一人のリソースでは限界があったところ、吉村さんの力も加わって学校を作り、先生方にも関わっていただくことで、図書館だけでは触れられない世界の文化や知識、実践的な方法に子どもたちが接する機会を提供できるようになりました。
学校建設におけるポイントは3つあり、かっこいい学校を作ること、資本効率が高い学校を作ること、教育のソフト面もサポートすることです。さらに環境整備や給食提供により、学校に通う率を高めるような取り組みも行っています。

ビジネスマインドで取り組む教育環境の整備

── ミダス財団が海外で教育環境整備事業に取り組む意義をどう捉えていますか。

私たちが取り組んでいるのは、支援ではなく投資です。子どもたちの未来への投資、より正確に言えば人生の選択肢を広げるための投資だと考えています。
社会課題解決に向けた活動も、ビジネスと全く同じことが求められていると考えています。社会が何を必要としているかを把握し、需要に対してどういう商品(サービス)を作って供給し、いかに持続成長させるか。ミダス財団の意義は、このビジネスマインドを活かして、最も持続可能かつインパクトを最大化させられる活動を実現することにあります。
重要なのは、私たちの能力と意思が、本当に必要とされている場所にフィットできているかということ。ミダス財団では、投資対象を決める際にいくつかの条件を設定しています。まずは、超貧困地域で支援の手が届いていない場所。そして、生徒が存在し、介入することでさまざまなメリットを享受できる場所。つまり、最も必要とされていて、かつ私たちの投資が最大限活用される場所を選んでいるのです。

── 教育環境の整備において、大事にしているポイントを教えてください。

カントが言ったように、政治と教育は世の中で最も難しいことです。未熟な人間が未熟な人間を教育するわけですから、完璧は期待できません。
それでも、改善の余地はたくさんあります。私たちが重視しているのは子どもたちの「スイッチ」を入れること。スイッチが入れば、自分自身で学んでいく選択ができるようになると考え、学校教育以外の教材や情報、刺激を提供して、子どもたちにさまざまな機会に触れてもらおうと事業を推進しています。

教育を超えた多角的支援を

── 今後の事業展開についてお聞かせください。

教育環境整備事業は一つの柱として走り続けますが、並行して別の事業も展開していく段階に来ています。たとえば、病院でのお粥やお弁当の配布事業を試験的に始めました。農村部から都市部の病院に来る人々は、高い物価に苦しみながら治療を受けています。特に出産や病気で栄養が必要なタイミングで、十分な食事を取れない状況があるためです。
また、ベトナムでは養子縁組事業も検討しています。病院で生まれた後に親が逃げてしまうケースに対し、子どもたちの人生をサポートし、選択肢を増やすための事業構想が始まっています。

── 事業を進める上で大切にしていることはありますか。

私が最も大切にしているのは、ミダス財団の職員や現地スタッフなど、実践者一人ひとりがハッピーになることです。
学校を作り、給食を提供し、知識を提供することはもちろん重要な取り組みですが、社会から賞賛を受けることよりも、取り組みを通じて実践者一人ひとりが幸せになることが最も大事なことだと考えています。だからこそ、切羽詰まってカリカリするよりゆるくやりましょうというスタンスを伝えながらも、プロフェッショナルに成果は出していく、という両輪を大切にしています。

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