子どもの声を起点に社会を変える。小倉將信氏が語るミダス財団の役割と期待  |  ミダス財団

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子どもの声を起点に社会を変える。小倉將信氏が語るミダス財団の役割と期待

Interview

DATE: 2025.10.23

前衆議院議員で初代こども家庭庁大臣を務めた小倉將信氏は、現在ミダス財団のアドバイザーとして、子どもの体験格差解消事業に関わっています。政治家として子ども政策に取り組んできた小倉氏が、なぜ民間財団の活動に参画することを決めたのか。そして日本の子ども・若者支援の現場に何を期待しているのか、話を伺いました。

行政の限界を超え、民間財団だからこそできること

── 小倉さんがミダス財団と関わることになった経緯を教えてください。

吉村代表との出会いは、私が議員だった頃に遡ります。将来のある政治家を応援したいと、何の見返りも求めず12年間にわたって政治活動を応援してくださったのです。私の政治活動に口を挟むことはなく、純粋に志を持った方だと尊敬していました。
議員を辞めた後、偶然吉村代表にお会いする機会があり、その時に財団運営を一緒にやらないかとお声がけいただきました。初代こども家庭庁担当大臣として携わった経験を活かせること、そして財団が取り組む子どもの体験格差解消や特別養子縁組という、行政が率先して取り組みづらいけれども非常に重要なテーマに共感し、参画を決めました。
 
── 「行政が取り組みづらい」とはどういうことでしょうか。

伝統的に、子どもの教育や育ちを支える担い手となるのは学校関係者でした。しかし、現在教育現場には大きな負荷がかかっており、決められたカリキュラムをこなすのに精一杯になっています。また、日本では公的な主体が提供するもの=「教育」という意識が根強く、公的な主体が多様な主体と連携しながら「体験」を提供することへのコンセンサスがまだできていません。
子どもに体験をさせるのは学校の役割でもなければ、自治体や政府の役割でもない。一義的には親を中心とした家族が提供するものだという意識が強い中で、行政は体験格差に対して経済的な問題で体験がままならない子どもへの支援を除いてなかなか手を出しづらい現状であると捉えています。

── その中で民間セクターに期待される役割は何でしょうか。

子ども・若者の貧困や孤立の課題は量的に増えているだけでなく、質的にも多様化しています。外国籍のルーツを持つ子ども、いじめや不登校に悩む子ども、障害を抱える子どもなど、それぞれが抱える課題は多岐にわたります。
従来の公的セクターは、複雑性の高い課題に手出ししづらくノウハウも十分ではない。NPOなど準公共の担い手は増えつつありますが、数も少なく、それらを支える中間支援組織も十分ではありません。結果として、素晴らしい活動をしているNPOも長続きしなかったり、途中でやめざるを得なかったりしています。
ミダス財団には、子どもや若者の課題に取り組むさまざまな主体をつなぐ役割を期待しています。独立した財源を持つ財団だからこそ、行政の単年度主義の呪縛から離れて、中長期的な視点で支援ができると考えます。

エビデンスと効果測定で、企業を社会課題解決に巻き込む

── 企業セクターの巻き込みについてどうお考えですか。

日本においては、もっと企業を社会課題解決の活動に巻き込む必要があります。昔のCSR的な純粋な慈善活動ではなく、業況がいい時も悪い時も継続できるよう、効果がきちんと可視化され、巡り巡って自社の活動につながるものを見据えた上で、企業も社会課題解決の重要なプレーヤーになってもらうことが重要です。
ミダス財団の特徴は、資本効率を重視し、ビジネスマインドを持って社会課題解決に取り組むところにあります。活動の見える化、効果の見える化を促進することで、取組の成果が十分に見えないで輪が広がりにくい現状を変えて、企業も含めさまざまな担い手が継続して参加でき、さらに輪が広がっていく。ミダス財団にはそれをできる素地があると考えています。
 
── 効果測定において学術機関との連携はどうあるべきでしょうか。

私も議員時代からEBPM(Evidence-Based Policy Making)を推進してきましたが、重要なのはロジックモデルをしっかり構築することです。何のためにやるのか、そのためには何をどういう形でやるのか、結果としてどういうパスで目的を達成できるのかを明確にする必要があります。
学者も含め研究者にしっかりと参加してもらうためには、事業の制度設計の段階から関与してもらい、企画段階から効果測定をどうやるかを頭に置いて進めていくことが重要です。実施してから評価をお願いしたりとか、結論ありきでその結論をサポートしてもらうために学者を使うようでは、優れたな人材は参加してくれません。

── ステークホルダー間でインパクト評価の認識が異なる課題についてはどうお考えですか。

たしかに小規模なNPOに効果測定を求めるのはハードルの高い話です。一方で、研究者もNPOの実態や思考回路を十分理解しているとは言えません。
例えば、さまざまな活動をしているNPOにも共通項があるわけで、その共通項をまとめた上で、複数のNPOの効果測定を同時に行うことでn数を増やすことも考えられます。これは、プラットフォーマーとしてのミダス財団の一つの方向性であると思います。
また、NPOと企業もマインドが異なるので、公共活動をやりながらもビジネスマインドを兼ね備えているミダス財団だからこそ、その橋渡しができるのではないでしょうか。

子どもの意見を尊重した財団活動へ

── 2050年までに1億人ポジティブな人生選択の機会を提供するという目標に向けて、中長期的にどのような活動が必要だと考えますか?

私がこども家庭庁大臣をしていた時に申し上げていた3つの意義が、ミダス財団にも当てはまると感じています。第一に、省庁の縦割りを排して子どものために動くこと。これは行政だけでなく、子どものために何か助けになりたいと思っている多様なプレーヤー間でも必要で、ミダス財団にはつなぎ手としての役割を果たしていただきたいと考えます。
次に、やるからにはしっかり効果を測定することです。やっておしまいではなく、本当に子どものためになっているかどうか、EBPMを通じて検証することが重要です。
そして最も重要なのは、子どもの最善の利益に立って活動すること。従来は大人が、子どもが喜ぶだろうと考えた上での政策がほとんどでした。財団の活動においても、最大の受益者である子どもの立場に立ち、耳を傾け、尊重した上で活動していくことが重要です。

── 子どもの意見を聞くプロセスについて、具体的にどのような形が理想的でしょうか。

子どもの力を見くびってはいけません。子どもだからできないだろうと考えるのではなく、一人の人間として接することが重要です。
よくあるのは、大人が全部お膳立てして、その後に子どもを呼んで意見を聞いておしまいというケースですが、そうではなく、企画の段階から子どもを参加させていくこと。目標設定やロジックモデルの構築、必要なデータの検討など、そもそも目標って何なのかというところから子どもたちに入ってもらうことで、大人も多くの気づきを得られるはずです。
日本の若い人たちは自己主張しない、意見を言えない、自信がないと言われますが、学校教育において、自分で考え行動する機会が他国に比べて少ないことも一因です。子どもや若者の意見を大人がしっかり聞いていくことは、この国の閉塞した雰囲気を打破し、若い人たちが主体的に動けるようになる一つの方法だと考えます。
 
── 最後に、ミダス財団へのエールをお願いします。

体験格差の解消にしても特別養子縁組にしても、ミダス財団は非常に難しい課題について、しかし日本にとって重要な課題について積極的にチャレンジしています。吉村代表をはじめとするミダス財団のメンバーはみなさんチャレンジ精神の塊だと感じていますので、難しい課題の解決にこれからも引き続き取り組んでもらいたいと思います。
私も微力ながら、これまで得てきた経験や知識を活かし、チャレンジ精神に溢れた皆さんと協働していきたい。一緒に、社会の変容に向けて力を尽くしていきたいと思っています。

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