公益財団法人ミダス財団(以下、ミダス財団)は、特別養子縁組事業の発展形として、社会福祉領域の人材育成支援に取り組んでいます。その一環として、特別養子縁組制度を支える支援者の専門性向上と分野横断的な連携強化を目的に、支援者向け勉強会を開催しました。
本勉強会では、制度の理念や現状に関する共通理解を深めるとともに、養親リクルートという実務的課題への新たなアプローチ、さらに将来を見据えた支援者育成のあり方について考えるといった内容になっており、民間あっせん機関をはじめ、妊産婦支援機関、児童相談所等行政機関などさまざまな立場で特別養子縁組に関わる関係者の皆様にご参加いただきました。本イベントレポートでは、勉強会の内容を一部お伝えします。
特別養子縁組の現状・意義・課題 ― これまでの調査結果を踏まえて ―
第1部では、日本女子大学社会福祉学科の林浩康教授による基調講演「特別養子縁組の現状・意義・課題 ― これまでの調査結果を踏まえて ―」が行われました。
講演では、近年の特別養子縁組を取り巻く社会的背景として、これまでの調査データを通しての現状の理解、今後支援者が取り組むべき課題をお話しいただきました。

・特別養子縁組成立件数は横ばいで推移している
2021年度の調査によると民間あっせん機関では平均8.7件の成立に対し、児童相談所では平均1.7件の成立となっている。34.5%の児童相談所は成立件数「0件」。民間あっせん機関は特別養子縁組支援のノウハウが蓄積されていくが、児童相談所では職員の異動が多いため、養子縁組のケースを担当しない限り、経験が引き継がれず知見を得難いといった課題がある。
→ 今後取り組むべき方向性として、民間あっせん機関や特別養子縁組に関与するフォスタリング機関との間での実践的ノウハウの共有と連携強化が重要であることが示されました。併せて、生みの親の同意に関する支援の在り方や制度運用上の課題について整理し、児童相談所長による特別養子縁組適格性判断の申立て制度のより積極的な活用を進めていく必要性があると指摘されました。さらに、乳幼児期に限らず学童期以降の子どもに対する特別養子縁組の可能性を広げること、障害のある子どもに対しても法的に安定した恒久的養育環境(リーガル・パーマネンシー)を保障する仕組みを整備していくことが、今後の重要な提言として共有されました。
・特別養子縁組の意義
これまでの調査では、特別養子縁組家庭では子どもの幸福度の高さや非認知能力項目の高さが指摘されている。その一方で、縁組成立後の家庭は一般世帯として扱われることが多く、社会的な理解が途上である中で養親は様々な苦労を体験しており、継続的支援を必要としている。養子当事者も、出自の情報など養親に聞きづらいこともあり、情報提供できる体制づくりが望まれていた。また、養親希望者手数料負担軽減事業の導入自治体が少なく、経済的な負担についての支援も少ないことがわかった。
→ 明らかになった課題に対する提言として、すべての子どもが家庭の中で安定して育つという「実子として育てられる権利」と、出自を尊重されながら養子として育つという「養子として育つ権利」の双方を等しく保障する視点の重要性が確認されました。その上で、出自を知る権利、アイデンティティ形成、告知やルーツ支援、思春期以降の心理的支援など、養子であることに固有の課題に対して、ライフステージを通じた継続的かつ専門的な支援体制を構築していく必要性が共有されました。
養親リクルート活動におけるデジタルマーケティング支援
第2部では、株式会社AViC(以下、AViC)より、養親リクルート活動におけるデジタルマーケティング支援についての実践報告が行われました。AViCは、特定非営利活動法人ミダス&ストークサポート(以下、ミダス&ストークサポート)の養親リクルート活動に協力していることから、その経験と養親候補層に情報が届きにくくなっている社会的な現状を踏まえ、検索エンジン、SNS、Web広告、動画コンテンツなどを活用した情報発信の戦略が紹介されました。

・ミダス&ストークサポート支援を通した事例紹介
ミダス&ストークサポートでは、社会全体で養親希望者数が年々減少している状況を受け、より能動的な情報発信とリクルート施策の必要性が高まっていました。そこで、デジタルマーケティングの専門企業であるAViCと連携し、すでに特別養子縁組に関心を持ち、インターネット上で情報収集を行っている層に対して、より的確に情報を届けることを目的として、Googleの検索広告の運用を開始しました。
広告配信にあたっては、「特別養子縁組」「養子を迎えたい」「養親 申込み」など、養親になる意向や検討段階にある可能性が高いキーワードを精査し、関心度の高いユーザーに絞って情報が届くように設計。また、限られた予算の中でも効果検証を行えるよう、無償広告枠と有償広告を併用しながら段階的に運用を進め、広告文や遷移先ページの改善を重ねることで、資料請求や問い合わせといった具体的なアクションにつながる成果が着実に増加しています。一方で、近年は情報収集の手段が多様化し、若年層を中心に検索エンジンではなくSNSやAI等で情報を得る傾向が強まっています。その影響もあり、Googleをはじめとする検索エンジン上での「特別養子縁組」に関する検索ボリューム自体は年々減少傾向にあり、検索広告だけに依存した養親リクルートには限界があることも明らかになってきました。
フューチャーデザイン志向型グループワーク特別養子縁組とその支援の未来を描く
第3部では、参加者同士の意見交換会として、フューチャーデザインの手法を用いたグループワークを実施しました。未来の人間が「今の私たちに何を望むか」を想像し、その声を今日の議論に反映させる仕組みを活用し、2050年の特別養子縁組・周辺領域の世界を想像し、未来を実現するために過去である現在の私たちが取り組むべき事項を考えました。




各グループからは、こどもを真ん中にした視点で、教育へのアプローチ、家庭養育推進のためへのアプローチ、児童虐待をゼロにするために医療・福祉・司法・民間団体からの連携したアプローチ、デジタル技術を活用した相談支援の可能性など、具体的かつ実践的な提案が数多く共有されました。支援者自身が孤立せず、学び合いながら成長できる環境を整えることが、最終的には子どもと家族の安定につながるという共通認識が確認されました。
さいごに
本勉強会全体を通して、特別養子縁組制度の発展には、制度理解の深化、養親リクルートの戦略的強化、妊娠期からの包括的支援、そして何よりそれらを担う支援者の継続的な育成を一体的に進めていくことが不可欠であることが改めて明らかになりました。今後ミダス財団では、今回得られた知見とネットワークを基盤として、支援者向けの研修や情報交換の場を継続的に設け、分野を越えた協働と相互研鑽を促進していく予定です。子どもの最善の利益を社会全体で支えるという理念のもと、支援者一人ひとりが専門性と倫理性を高めながら、安心して役割を果たせる環境づくりに今後も取り組んでいきたいと考えています。
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